真紅の空



「前にも言ったなぁ。
 好きか嫌いかの二択しかないのさ。
 

 前は別として、今は好きの一択なんじゃあないのかい?
 好いてしまったと認めてしまえば、楽なんじゃないのかい?」


馬に揺られて、ぼうっとしてくる。


好きか嫌いか。


そういうことならば、あたしはきっと
出会った時から好きだったんじゃないかと思う。


だって別に嫌いだっていう感覚はなかったし、
単純に暁斉のことすごいなとか思うことだってあった。


好きか嫌いかで言ったら嫌いではなかったんだよね。


ただ、本当に好きかって聞かれると
素直に好きだと言えない自分がいて、
ずっと否定するために
それっぽい理由を探していたのかもしれない。


あたしは、暁斉が……。




「……好き」




ポツリと言葉を落とした。


「好き、だから……戦に行ってほしくない。
 雪姫様みたいにあたしも、
 暁斉に行ってほしくないって思ったの。

 ただ単純に……寂しかったし、
 この手の中にいてほしいって思って、それで……っ」


一度言葉を落とすと溢れて止まらなくなる。
じわりと、涙が滲んだ。





行ってほしくない。


ただ単純に、寂しいだけ。


いなくなってしまったら、悲しいだけ。




「それでいいのさ。
 アンタはその想いを貫いてくれればいい。
 雪姫からあいつを引き離してくれれば、それでいい。


 姫さんの想いは、我慢しなくていいものなのさ」


「でも、仁が……」



< 89 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop