真紅の空






「ゆ、由紀殿!ご無事で!」


屋敷に帰ると、則暁くんが慌てた様子で駆けてきた。
そばにはあの雪姫もいる。
馬を降りて着物を整えてから、則暁くんと雪姫を交互に見た。


「博仁様は?」


暁斉の無事を確認したい雪姫が身を乗り出して問う。


赤地の鎧姿を思い出す。
暁斉は無事なのかな。
なんて言ったらいいのか分からなくて、首を横に振った。


すると雪姫は項垂れてため息をついた。
随分と重いため息。
あたしへの失望も混じっているだろうと悟る。


「やはり、誰にも止めることは出来ないのですね」


「でもっ……暁斉は、帰るって約束してくれたわ」


「約束?」


雪姫が眉を顰める。
則暁くんも驚いたように瞳を揺らした。


「生き抜くって約束してくれたの。
 帰ってきて、勝手に戦場に出てきたあたしを叱るって。
 だからあいつは必ず帰ってくる……と思いたいの」


「そう、ですか……」


ほっとしたように雪姫が胸に手を当てる。
綻ぶ笑顔が美しい。
あたしもその笑顔に戸惑いながら微笑み返した。


「雪姫、どうしてこんなところに?」


芳さんが雪姫に向けてそう問う。
その瞳は鋭い。


芳さんは雪姫のことをよく思っていないのかな。
きっと暁斉に近付く姫様を煩わしく思っているのだろうと思う。


結構冷たい問いかけだったのにも関わらず、
雪姫は何も揺らぐことなく真っ直ぐな瞳で芳さんを見た。


「私もここで、博仁様を待たせていただいているのです」


「姫、ここはあんたの来るところではないのさ。
 俺が送ってやるから、帰るんだね」


「嫌です。博仁様の無事をこの目で確認するまでは帰りません」


「いいかい、あいつの名はここでは暁斉だ。
 気安く本当の名を口にするのはいただけないね。
 雪姫もバカじゃないんだ。それくらいは分かるだろう」


芳さんも雪姫もどちらも絶対に退かない。
嫌な空気が流れる中、打ち破ったのは則暁くんだった。


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