真紅の空
*
「ゆ、由紀殿!ご無事で!」
屋敷に帰ると、則暁くんが慌てた様子で駆けてきた。
そばにはあの雪姫もいる。
馬を降りて着物を整えてから、則暁くんと雪姫を交互に見た。
「博仁様は?」
暁斉の無事を確認したい雪姫が身を乗り出して問う。
赤地の鎧姿を思い出す。
暁斉は無事なのかな。
なんて言ったらいいのか分からなくて、首を横に振った。
すると雪姫は項垂れてため息をついた。
随分と重いため息。
あたしへの失望も混じっているだろうと悟る。
「やはり、誰にも止めることは出来ないのですね」
「でもっ……暁斉は、帰るって約束してくれたわ」
「約束?」
雪姫が眉を顰める。
則暁くんも驚いたように瞳を揺らした。
「生き抜くって約束してくれたの。
帰ってきて、勝手に戦場に出てきたあたしを叱るって。
だからあいつは必ず帰ってくる……と思いたいの」
「そう、ですか……」
ほっとしたように雪姫が胸に手を当てる。
綻ぶ笑顔が美しい。
あたしもその笑顔に戸惑いながら微笑み返した。
「雪姫、どうしてこんなところに?」
芳さんが雪姫に向けてそう問う。
その瞳は鋭い。
芳さんは雪姫のことをよく思っていないのかな。
きっと暁斉に近付く姫様を煩わしく思っているのだろうと思う。
結構冷たい問いかけだったのにも関わらず、
雪姫は何も揺らぐことなく真っ直ぐな瞳で芳さんを見た。
「私もここで、博仁様を待たせていただいているのです」
「姫、ここはあんたの来るところではないのさ。
俺が送ってやるから、帰るんだね」
「嫌です。博仁様の無事をこの目で確認するまでは帰りません」
「いいかい、あいつの名はここでは暁斉だ。
気安く本当の名を口にするのはいただけないね。
雪姫もバカじゃないんだ。それくらいは分かるだろう」
芳さんも雪姫もどちらも絶対に退かない。
嫌な空気が流れる中、打ち破ったのは則暁くんだった。