【完】こいつ、俺のだから。
前方から声が聞こえ、顔をあげた。
この声はよく知ってる。
もっと言えば、あたしのことブスって呼ぶヤツなんてあいつだけだ。
ヤツはあたしの方を向いて、待つべき場所であたしに手を差し出していた。
「あともうちょいだから、頑張れや!」
……なんだそれ。佐野のクセに。
そんなこと言われたら、無性にも泣きたい気持ちになるだろうが……バカ野郎。
あたしはバトンを拾い、立ち上がる。
不思議なことに、そのとき足の痛みを感じなかった。
むしろ、足取りが軽くなる。
――〝頑張れや!〟
……偉そうに。
何様よ、あんた。
最後まで一生懸命走った。
たくさんの人達に抜かされたけど、きっとこの走りは、今までで1番、自分の中で頑張ったと思う。
あたしを待っててくれたこいつに、思いっきりバトンを手渡した。
パシッとした音が、乾いた空気の中で響く。
それは……
「よく頑張ったな」
ふたりが繋がった音。