【完】こいつ、俺のだから。



前方から声が聞こえ、顔をあげた。



この声はよく知ってる。



もっと言えば、あたしのことブスって呼ぶヤツなんてあいつだけだ。




ヤツはあたしの方を向いて、待つべき場所であたしに手を差し出していた。




「あともうちょいだから、頑張れや!」




……なんだそれ。佐野のクセに。



そんなこと言われたら、無性にも泣きたい気持ちになるだろうが……バカ野郎。




あたしはバトンを拾い、立ち上がる。



不思議なことに、そのとき足の痛みを感じなかった。



むしろ、足取りが軽くなる。





――〝頑張れや!〟




……偉そうに。


何様よ、あんた。





最後まで一生懸命走った。



たくさんの人達に抜かされたけど、きっとこの走りは、今までで1番、自分の中で頑張ったと思う。




あたしを待っててくれたこいつに、思いっきりバトンを手渡した。



パシッとした音が、乾いた空気の中で響く。



それは……






「よく頑張ったな」






ふたりが繋がった音。





< 165 / 418 >

この作品をシェア

pagetop