【完】こいつ、俺のだから。
……ホント、意味わかんない。
なんでこんなときだけ、そんな優しいこと言うんだ。
ダセェとか、言えばいいじゃん。
どうせなら、あたしのことバカにしてきなさいよ。
そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、佐野は風のように、走り抜いて行く。
「おい、中原!コケたとこ大丈夫かよ!」
心配して駆け寄ってきてくれた楢崎の声も聞こえないくらい……
あたしはあいつに見入っていた。
胸がキュッと、掴まれたみたい。
喉の奥が熱くて、息ができなくなりそうだ。
「すげぇな佐野……めっちゃ速い」
周りにいた人達も、ガヤガヤと佐野の走りに魅せられていた。
「…………」
あんたって、本当になんでもできる天才なんだね。
顔だけじゃなくて、運動もできて……。
……そして、あたしを惑わす天才だ。
ゴールテープを切った佐野を見ながら、密かにそんなことを思ってた。
「……!!よっしゃ1位だぁぁ!!!」
クラスの男子がそう叫んだ。