【完】こいつ、俺のだから。



……ホント、意味わかんない。



なんでこんなときだけ、そんな優しいこと言うんだ。




ダセェとか、言えばいいじゃん。


どうせなら、あたしのことバカにしてきなさいよ。





そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、佐野は風のように、走り抜いて行く。





「おい、中原!コケたとこ大丈夫かよ!」



心配して駆け寄ってきてくれた楢崎の声も聞こえないくらい……



あたしはあいつに見入っていた。





胸がキュッと、掴まれたみたい。



喉の奥が熱くて、息ができなくなりそうだ。




「すげぇな佐野……めっちゃ速い」



周りにいた人達も、ガヤガヤと佐野の走りに魅せられていた。




「…………」



あんたって、本当になんでもできる天才なんだね。



顔だけじゃなくて、運動もできて……。




……そして、あたしを惑わす天才だ。





ゴールテープを切った佐野を見ながら、密かにそんなことを思ってた。




「……!!よっしゃ1位だぁぁ!!!」



クラスの男子がそう叫んだ。



< 166 / 418 >

この作品をシェア

pagetop