【完】こいつ、俺のだから。
「佐野……」
「なんで勝手にいなくなった」
理由を問われて困惑する。
なんでかよくわからない。
あんたが前野さんと電話してんの見たら、無性にイライラした。
すぐそこにある、ドーナツ屋さん。
ドーナツを買ったら、あんた喜ぶかなとか、そんなこと考えた。
ただそれだけだ。
なんて、口に出せるワケがない。
だってあたしは……。
「お腹すいた」
「えっ?」
「お腹すいたから、ドーナツ屋に行こうと思った」
すぐそこの、いつか佐野と行ったことのあるドーナツ屋を指差す。
すると佐野は、その整った表情の頬をピクピクと引きつらせた。
「お腹、すいただと……?」
少しずつ眉を吊り上げ、あたしを睨みつけてくる様子がわかった。