あなたまでの距離


ーー



ある日、それは突然だった。


取引先からの納品の対応を終えて、休憩所で一息つこうと思い自販機スペースへ移動し、ふと、目線を変えると…。




向こうからあの人が、こちらに向かってきてた。





その瞬間、私の身体は動く事を忘れ



心臓がギュッと鷲掴みにされた感じ。




あの人もこちらに気づいた。




そして、昔とちっとも変わってない、笑顔を見せてくれた。



「お疲れ様。久しぶり。」



笑ってる口元が右端だけ歪む。あの人の癖。




変わってない。




「お疲れ様です。お久しぶり…です」

急な緊張で、上手く声がでない。





「いつの間にか、戻って来てるもんな。今のところ、もう、慣れた?」




自販機で、コーヒーを買いながら話し掛けてくれる。



「今まで担当してたのと、全然ちがうから、なかなか…」



上手く笑えてるかな?

不安になる。



自販機から、ガコンと音を立てて缶コーヒーが落ちる。

取り出し口から、それを取り出したあと、もう一度私の方を見てくれた。


「そっか、頑張って。じゃあね。」


「ん…。ありがとう…ございます」


また、にこっと微笑みを浮かべて、彼は喫煙室に向かって行った。




時間にすると、たったの1分くらい。






でも、私の心を揺さぶるのには充分過ぎる時間だった。






ドキドキと、胸の高鳴りが収まらない。




喫煙所に入る、あの人の背中を目で追い掛けた…。




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