【続】三十路で初恋、仕切り直します。

「お疲れみたいですね。お嫌いじゃなかったら是非召し上がってください」


西が差し出したなめらかな陶器の上に乗っているのは、色取り取りのドラジェやマシュマロにハニーキャンディ、ミニサイズのカヌレだ。レストランで手土産として販売されていて結婚式のプチギフトにも使われるお菓子を、『睡蓮』のオーナーシェフが好意で「お味見にどうぞ」と用意してくれたのだった。


お店は現在ディナーの仕込み中で、泰菜たちは2階にある個室で打ち合わせを進めていた。普段は予約での貸切専用になる2階の個室は、披露宴当日はひとつは列席者用の着替え室になり、今泰菜たちがいる中央の部屋は花嫁専用のブライズルームになるという。


「どうですか。会場のイメージ、沸きますか?」


言いながら西が手元に用意した写真を泰菜に向けてめくってくれる。


「当日、列席者のみなさんにははじめはエントランスホールで待機していただいて、新郎新婦さまはこの部屋から正面の階段を使って登場していただくことになります。……なんだか手前味噌なんですけど、ここの階段、写真映えすると思いませんか?」


見せてもらっているのは昨月ここで挙式したというカップルの写真で、寄り添って階段を降りてくる新郎新婦と下で祝福するように彼らを待ち受けている列席者の姿がきれいなアングルで収められていた。

『睡蓮』はゲストハウス風の一軒家で、ヨーロピアン調のクラシカルな内装は優美で瀟洒な雰囲気があり、エントランスホール正面にある木目と艶のうつくしい絨毯張りの階段は存在感があって、『結婚式』という非日常をよりロマンチックに演出していることが写真でもよく分かる。


「たしかにどのお写真も素敵ですね。わたしの場合、ドレスの裾ふんずけて階段から転げ落ちないかちょっと心配ですけど」
「大丈夫ですよ。万が一転びそうになったときには、すてきな旦那様がしっかりと泰菜さんを支えてくださいますから」

たしかに法資ならエスコートもフォローも率なくこなしそうだなと納得しかけていると、西は朗らかに「冗談です」と言って手を振る。



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