【続】三十路で初恋、仕切り直します。

ふたりはひとりで挙式の準備を始める泰菜の心細さを察したかのように早めに式場に到着すると、肩を並べて控え室にやって来た。

以前の顔合わせ以来同い年の紀子と晶はすっかり意気投合し、メールのやりとりをしたりたまに食事に行ったりする仲になったと聞いていた。今日も新郎である法資が事前に連絡があった時刻になってもまだ会場入りせず泰菜が不安で落ち着かない気分になっていると、2人掛りであれこれと泰菜にかまいはじめた。


「ほらほら泰菜ちゃん。表情硬いってば。ね、カメラマンさん?」


晶が背後にいる女性カメラマンに話しかけると、彼女は笑顔で「緊張なさってる姿も初々しくて素敵ですよ」といってまた何度もシャッターを切る。

挙式の最中だけでなく、その前後の新郎新婦や列席者たちの自然な姿も撮りたいと言われ、泰菜はまだ挙式会場に来たばかりの私服姿から、ドレスを着てヘアやメイクを完成させて身支度を済ませた今の姿まで、何枚も撮ってもらっていた。

「初々しい、か。たしかに泰菜ちゃん、初々しくて可愛いけどねぇ……」

晶がもの言いたげな顔をして泰菜の顔を見詰める。ちなみに息子の英人は今父親の英達に預けられ、控え室の外からはときおり幼児特有の英人の甲高い声が聞こえていた。

「でもそういう顔はもう写真でいっぱい見せてもらっちゃったからねぇ。あたしはそろそろ満面の笑顔とか見たいかなぁ。ねえ、紀子ちゃん?」

晶に意味ありげな含み笑いを向けられる。義姉が先週の静岡での披露宴パーティのことを言わんとしているのを察した泰菜は耳朶を赤くした。




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