【続】三十路で初恋、仕切り直します。

「……なんか憂鬱になってきた。法資のお嫁さんがどんな美女なんだってみんなが期待してるのに出てきたのがこの顔じゃ、反応怖すぎてみじめだよ。折角メークさんにこんなに上手に造ってもらったのに、やっぱ鼻はひくいし、顔薄いし、いくらエステ行って肌メンテしても顔の造りは素材そのままなわけだし、勝負できるような素材じゃないしっ」


高校時代の友達の杏奈からは揶揄半分に「イケメンと結婚するってだけで泰菜、みんなから超僻まれていじわるな目で見られちゃうんだろうね!」と、悪気がないながら受け流すことが出来ないくらい強烈な冗談を言われてしまっていた。


「……あーやだ。もうやだ。法資がもうちょっと不細工だったらよかったのに」
「悪いな、ルックスのレベルだけはおまえに歩み寄ってやることが出来なくて。申し訳ない」


慰めるような口調で、しれっと棘まみれの嫌味を吐いてくる。



うちのだんなさんはほんとにひどい、うそでもいいから人生で一度の花嫁姿くらい褒めてくれたっていいのにと心の中で呪っているとおでこをぴっと弾かれた。「痛い」と抗議しようとするよりさきに、急に間近に迫った法資の顔に息を飲む。



「……ぺちゃ鼻だろうと垂れ目だろうとデコっぱちだろうと、それでも俺の目にはおまえが一番かわいく見えるんだから、やっぱり俺は間違いなくおまえに惚れてるんだな。……大丈夫、俺にはおまえだけが美人に見えるから」


さんざん落とした挙句に不意を付くように甘い言葉で胸を蕩かしてくるのが、意地の悪いこのひとの常套手段だったと気付くより先に盗まれるように唇が重なった。


「今日のおまえ、悔しいけど見惚れた。……きれいだ」




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