【続】三十路で初恋、仕切り直します。
呆気にとられている間に法資は背を向けて颯爽とチャペルに向かう。
遠目から頻りにシャッターを切っていたカメラマンが思わずといった様子で「映画のワンシーンみたいでどきどきしました」なんて漏らしたけれどそれも泰菜の耳には届かなかった。
目を閉じる間もなくキスをされたその距離で見たとき、法資の目はこのうえなくいとおしいものを見る、やさしい弧を描いていた。
出会ってからは自分の歳と同じくらいの年月が経っている。
近すぎる関係だったからこそ、子供のときは上手くいかずに躓いたこともあった。
そして今はもう恋人ではなく、夫になった人だ。
それでもときどき戸惑うくらい法資にどきどきしてしまうことがある。
でもその『どきどき』と『居心地の良さ』、相反するふたつの感情が同時に存在することが泰菜の中ではまったく矛盾しない。
たぶん法資とは、これからもこの胸を焦がす不思議な安堵感を共有していくことが出来るはずだ。
----------法資のことも自分のことも、幸せにしてみせよう。
その確信を胸に、まずは誰よりも大切な人に向けて泰菜はその第一歩をゆっくりと踏み出した。
《end》