【続】三十路で初恋、仕切り直します。

「大丈夫?まだ熱が高そうだけど」



枕元で泰菜が訊いてくる。答える代わりに汗で湿った手を伸ばし、またいつ気まぐれに去っていくかもしれないその体を捕まえた。


「ちょっ……法資っ!?」


驚いて声を上げる泰菜を強引に引き寄せた。

泥に沈んだように重たい体の上に、無理やり泰菜を乗せて抱き寄せる。泰菜はすこしだけ抵抗するような躊躇うような素振りを見せつつも、結局は自分の上で大人しくされるがままになった。

それをいいことにいっそう腕に力を込めて抱き締める。


「………もう法資、痛いよ」


笑いながら責めてくる声。顎や腕を不規則にくすぐってくる髪の毛の感触。服越しの胸に感じる泰菜の吐息。全身に圧し掛かってくるやわらかな体と、その心地よい重さ。



子供の頃から纏わり付いていた、風邪を引くたびに姿を現す不安や絶望感が、腕に力を込めるごとに遠ざかっていく。

愛おしい女を抱き寄せるなにごとにも変えがたいこの幸福感を前には、自分が抱える不安など瑣末なことに感じられる。




-----------ずっとこうしてみたかったんだ。



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