【続】三十路で初恋、仕切り直します。








「……ああ!法資着替えてない、上裸のまま!風邪ひどくなっちゃうよっ」


眠る自分の意識を揺さぶってきたのは、泣いている9歳の自分でも、苦い思いばかりの16歳の自分でも、後悔に苛まれていた頃の自分でもなく。一緒に果ててそのまま腕の中で眠りに落ちていた泰菜だった。


自分だってまだ着衣の乱れを正していなくて半裸状態だというのに、ベッドから這い出していこうとする泰菜は「一緒に寝ちゃったよ」と半泣きになりながら床に散らばった着替えを慌てて拾おうとする。

胸が丸出しのままの自分のことすら目に入らなくなるくらい、とにかく夫の体調が気掛かりらしい。そのあまりの必死さにくすぐったくなって、思わず笑った唇から声が漏れてしまう。


「法資?起きたの?待っててね、今度こそ着替えを……」


自分を世話するためだと分かっていても、泰菜がベッドから抜け出て離れてしまうことが許せなかった。どこか間抜けで色っぽい半裸姿の泰菜を引き寄せると、再び腕の中にきつく抱き込んでやる。


「え、……ちょっと、待って、法資とにかく何か着ないと、」


焦ったように泰菜が何かを言ってくるけれど、それは耳に届く前に言葉としての形を成さなくなった。高い場所へと導かれるように意識がやさしく溶けていく。





------------風邪を引くのも悪くない。




まるで子供のような単純さでそんなことを思いながら、引き寄せた愛おしい体温を抱きふたたび眠りについた。








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