【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「……ちょっと班長、なんでもかんでも班員のひとに喋りすぎですよ」
非難する泰菜におじさんたちは「班長、相原ちゃんに叱られてら」と冷やかした後で、「もっと面白い話も聞いてるぞ」と言って笑う。
「相原ちゃんは桃木さんともう婚約してんだってな」
宮原に言われて絶句してしまう。そんな話まで周囲に漏らしていたのかとじろりと田子を険しい目付きで睨んでやると、またもや鈴木に「まあまあ」と宥められる。
「そう怒らないでやってくれよ。班長、婚約の話がうれしかったみたいでよ」
そうそう、と鈴木と宮原が同意する。
「でも婚約してるはずなのに待てど暮らせど結婚するっていう具体的な話が聞こえてこないし、本人に問い質してみてもいつもうまく誤魔化されるみたいで、『予定は未定なのか』ってえらく気を揉んでてな」
「『折角前の変な男と切れたのに、次の相手も結婚を餌にしてもてあそびやがってるだけなのか』とか、田子さん、悪い方向にばっか考えててな」
「ちょい、待て」
渋面のままの班長がイラついた様子で「俺がいつ、それが相原の話だっていったよ」と決まり悪そうに言う。
「ああ、班長は姪っ子の話だって言ってたっけ」
「けどそりゃ嘘だろ?班長の姪っ子ってたしか嫁さん方に一人っきゃいねぇし、その愛子ちゃんだってとっくに嫁に行ってるじゃねぇの」
「“今時の若いのにしちゃ真面目で一生懸命なヤツ”で、おまけに班長が結婚のことまであれこれ考えて肩入れしちまう相手なんて相原ちゃんのことに決まってら。つまんねぇ誤魔化しされたってよ、俺らは気付いてたっつの。なあ?」
井野の言葉に、鈴木と宮原が頷く。
「桃木さん呼び出したのはよ、『相手の野郎にどうするつもりなのかって、いつか俺がガツンと言ってやる』って息巻いてたから、今日それを実行するつもりだったんだろよ」
なあ?といっておじさんたちが顔を見合わせてにやにや笑い出す。
「それがどうよ、チャラいどころかやってきたのがどう見ても全うな、それもとびきり上等なとんでもねぇ男前だったもんだから、班長、待ち合わせの駅まで桃木さん迎えに行って顔合わせた途端、怒鳴り込むどころか『遠いところをどうも』だなんて馬鹿みてぇにお上品になってド緊張しちまってなぁ」
言いながらおじさんたちがぶっと吹き出すと、田子はますます眉間に深く皺を寄せてむっつりする。
「まあだから許してやってくれよ相原ちゃん。この人これでも自分のこと相原ちゃんの『静岡での親父』みてぇに思っちまってるんだからなぁ」