【続】三十路で初恋、仕切り直します。



「いっやぁ。しかしよぅ、こんな男前で仕事もデキるなんて、ほんと相原ちゃんはいい男みつけたよなぁ」


付き合いのいい法資にがんがん飲ませながら、おじさん作業員たちはご機嫌だった。


もともと社交的な法資は話題が豊富で、おまけにその場の雰囲気に合わせて聞き役に徹したり、要所要所で自分から話題を振ったりするので、鈴木たちはすっかり法資との会話に夢中になっていた。


井野が最近手を出しはじめたというミニ株投資の話や鈴木の初孫の話、宮原が会社の福利厚生で行った宿の話など、取り留めない話題で盛り上がり、それがひと段落すると。



「班長もこれでひと安心だねぇ」



ロックの焼酎を呷りながら井野がしみじみと呟いた。


「田子班長はさ、相原ちゃんがまたろくでもねぇ男に引っ掛かったんじゃないかって、ずっとやきもきしてたんだぜ」


なあ班長、と井野が話を振ると田子は渋い顔で「よしてくれ」と言う。


「ろくでもない男……?」
「そうそう、相原ちゃんはいい子だけど『男を見る目だけは節穴だ』って言っててさ」


田子が泰菜を『節穴』呼ばわりする原因になった人が、同じ卓にいる長武だとは気付かぬ様子で「俺ぁ田子さんから、相原ちゃんが前に付き合ってた男があまり素行のよろしくねぇ男だったってきいてるぞ」と井野が言う。泰菜は肯定も否定も出来ずに曖昧に笑うことしかできない。


「で、そのロクでもねぇのの次が桃木さんなんだろ?……桃木さんはよ、去年の暮れは仕事忙しくて、年末年始は休み返上だったんだよな?」


法資が頷くと、今度は鈴木が苦笑しながら口を開いた。


「年明けにな、なんだかすげぇ元気のねぇ相原ちゃん見て、『仕事だか何だか知らねぇけど、相原みたいないいのを休み中放ったらかしにしておくなんて、野郎何様だ』って怒ってたんだよこの人」


思わぬ話に田子に視線を向けると、田子はばつが悪そうに泰菜から顔を逸らす。


そういえばその頃、法資に会うことが出来なくなって意気消沈していた自分を、田子はしつこく追いかけてきて、「男に振られたのか」「釣った魚に餌くれねぇような男なのか」といろいろ突っ込んだことを訊いてきた。噂好きな田子のただの迷惑な野次馬根性だと思ったからそのときはかなり邪険にあしらってやったが。






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