【続】三十路で初恋、仕切り直します。

長武は驚いたように法資の顔を見て。それから泰菜と法資の間で結ばれたままの手にちらりと視線を落とした。



「すみません、見苦しいものをお見せして」



そういいながらもなんら悪びれた顔もせず、法資は堂々と手を繋いでいる。長武の手の中では携帯が小刻みに揺れ続けていた。


「……奥様からですか?」


こいつから新婚さんだって聞いてますよ、とにこやかに笑ったあとで法資はお幸せそうでうらやましいです、などと言う。長武はその言葉に複雑そうな顔で笑う。

その合間にも何度も着信を知らせ続ける携帯を煩わしそうに見ると、長武は含みのある苦笑いを浮かべて「桃木さんほどじゃありませんよ」と返した。


法資はその言葉を否定せずにただ笑みを浮かべてこの場を立ち去りかけ。でも不意に何かを思い出したように、長武の背中に声を掛けた。



「さっきこいつが言ったこと、嘘なんですよ」



意味を取りかねてか、振り返った長武が怪訝な表情になる。それに構わず法資が続けた。



「こいつは俺の初恋の相手で。だから口説きまくって、どうにか婚約してもらえるように必死になってたのは、本当は相原じゃなくて俺の方なんです。……本当に、こいつが今まで独身でいてくれて俺は運がよかったです」


言いながら長武の前で繋いでいた手を解き、泰菜の肩を抱き寄せながら店に入っていく。


「……ちょっと、法資」


店内に入ると、肩に乗せられていた法資の手を振り落とし。その手に引っ張られてブラ紐が見えるくらいに肩まで落ちてしまっていた襟ぐりを慌てて元の位置に正した。



「……あきれた。……もう、こんなことまでしなくたって………!」





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