【続】三十路で初恋、仕切り直します。
たった今隠したその場所には、先程法資に付けられたばかりの真新しい鬱血の痕があった。
まるで肩を抱いて偶然露出したような体裁をとっていたけれど。鎖骨の上にあるその赤い痕にすぐに気付いて目を瞠った長武には、法資が故意に見せたことに気付かれたはずだ。
-----------もうバカじゃないの……!?
元彼の長武への牽制や対抗意識なんだとしても、わざわざ「自分のものだ」と見せ付けるような真似をするなんて恥ずかしすぎる。
こんなことまでしなくても、もう長武が自分に妙なちょっかいをかけてくることなどないだろうに。今頃長武に意識過剰だと苦笑いされているだろうと思うといたたまれない。恋愛に夢中で周りが見えなくなってしまっている少年少女ならまだしも、もう30も過ぎたいい年のオトナのすることじゃないだろう。
さすがに幼稚すぎる法資の行為に文句を言ってやろうとして。でも隣にいる法資の顔を見てうろたえてしまう。
澄ました顔で牽制めいたことをしたくせに、後になって自分の行動が恥ずかしくなってきたのか、法資は耳まで真っ赤にしていた。
手で口元を押さえたその顔には「やってしまった」という後悔の色がありありと浮かんでいた。そんな法資の様子に、泰菜までますますやりきれないくらい恥ずかしくなってきてしまう。
「……もう、ばかっ。何やってるのよ」
羞恥の海で溺れそうになっている法資のわき腹を、ちょっと乱暴に肘で突いて文句を言ってやると。法資はすぐには立ち直れそうにもない顔でちらりと泰菜に視線を寄越した後、ふう、と深いため息を吐いた。
「あまり俺に大人げないことさせるなよ」
「………わ、わた、わたしの所為だっていうんですか………?」
本気で後悔して落ち込んでいる法資の姿に、はじめて「このひと大丈夫なのかな」といろんな意味で心配になりながら。ふたり連れ立って、班長たちの待つ座敷席へと戻っていった。