【続】三十路で初恋、仕切り直します。

法資は泰菜の言葉にちいさく息を飲んだ後、不意に口にした。


「……武弘じいちゃんのあの家、処分するんだってな」


その言葉に思わず顔を跳ね上げると、法資が苦笑する。


「家の中が妙に片付いているから気になってたんだよ。……もともと散らかっちゃなかったけど、すっきりしすぎているっつぅか。よく見りゃ家具とか布団とか、そういう大きいものだいぶ減ってるし」



今朝ふたりで家に帰ってきたとき。

法資が部屋の中を見て、何かもの言いたげな顔をしていたことを思い返す。あのときには法資はもうある程度のことは察していたのだろう。



「飯田のばあちゃんから、おまえがじいちゃんの家をそのうち手放すつもりでいるって聞いた。……親父さんと決めてたことなんだってな。おまえがあの家出て行くことになったら、田舎の古い家だしきっと貸し手も見つからないだろうから、無人でそのままいずれ朽ちて倒壊するくらいだったら、すぐに解体するつもりなんだって」





祖父が亡くなったときに、土地と家とを相続した父が言っていたのだ。武弘の家に泰菜が住むのは自由にしていい代わりに、もし泰菜が結婚するなり地元へ戻るなりして家を出て行くことになったら、そのときは武弘の家も土地も処分すると。

ひとり息子の父がもう桜井町から静岡に戻る予定はない以上、住む人も管理する人もいなくなった無人の武弘の家は廃屋になってしまう。

昨今は周辺の空き家に放火やゴミの置き去りの被害もあったこともあり、処分することになったら即座に解体しようと決めていたのだ。

それが自分たちにとっても、亡くなった祖父にとっても一番いいやり方のはずだからと。





「そうなの。おじいちゃんがなくなった後も、おじいちゃんの持ち物、ほとんどあの家にそのまま置いてある状態になってたから。この前お父さんが来てやっと一緒にきちんと遺品整理したとこで。……といっても、お父さん、べつに形見はいらないって言って写真くらいしか持って行かなかったけど」


そういって窓の外の見慣れた景色を見詰めていると。おそらく近いうちになくなるだろうその家にたどり着いた。





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