【続】三十路で初恋、仕切り直します。
「今度お礼しないと。おばあちゃんのお赤飯、好きなんだ。久し振りだな。また食べられるなんてうれしい」
---------ああ、でも。
もしかしたら飯田のおばあちゃんのお赤飯を食べるのはこれが最後になるのかもしれない。そう思った途端に、急に胸が苦しくなる。
見合い話を寄越してこようとしてきたり、ちょっとお節介だなとおもうこともあったけれど、飯田家の夫婦はどちらも泰菜にやさしかった。「孫のようなもの」だと笑って言っていたこともあった。
彼らと親戚のようにつきあうのも、当たり前のように顔を合わせて挨拶するのも、あと少しの間になるかもしれない。そんなことに今まで気付きもしなかった。
「……泰菜?」
どうすることもできないやるせない感傷に、法資に縋るように彼の手に指を伸ばしてぎゅっと握り締める。
優衣が言うように、誰と結婚したって多少の不満があるように、誰と結婚しようがどこへ嫁ごうが、何かしらの別れや変化があり、しあわせとともに多少のさびしさも味合わなければならないのは同じだろう。
ならば自分はこの手を離さない様にぎゅっと握り締めているべきなのだと、繋いだ指先に力を込める。
「ねえ法資」
「なんだよ、改まって」
「……わたし」
わたし法資のお嫁さんになりたい、と小さく誓うように囁く。