【続】三十路で初恋、仕切り直します。

「ちっちゃい頃から言い寄ってくる女の子たちに見向きもしないで泰菜ちゃん構い倒してたくせに。バレバレでしょ、この辺りに住んでた子はみんなそんなの知ってるわよ。石見さんちの悠太だって、浜田さんちの由起子だって、ふたりが入籍する予定って言ったら『とうとう法資の執念が勝ったか』って大爆笑だったわ」


それこそいちばん笑ったのは晶だったのではないかと思うくらい、晶が大きな口で豪快に笑い出す。


「……あんたさ、正式に入籍する前に何勝手にご近所さんに言いふらしてるんだよ」
「あらいいじゃない。法くん婚約解消する可能性が万が一にもないんだから、不都合はないでしょ。……あ、でも法くんが我に返った泰菜ちゃんに逃げられちゃう可能性はなくはないか……」
「ねぇし。っていうか『我に返った』ってなんだよ。どんな言い様だよ」
「でも実際のところどうなの?気になってたんだけど、今になってどうやって泰菜ちゃん口説いたの?」


興味津々の晶に、すぐさま「言うわけないだろ」言い返した法資が泰菜を見て驚いた顔をした。それから実に気まずそうに言ってきた。


「……おまえなんだよ、その顔」


泰菜は自分が今どんな顔をしているのか、見ることは出来ないけれどだいたい予想が出来た。耳が焼け焦げそうに熱い。顔が恥ずかしい色味に染まっているのだろう。動揺している泰菜を見て晶は不思議そうな顔をする。


「あれ?泰菜ちゃん、まさか気付いてなかったの?法くんの初恋、泰菜ちゃんだって」


つい最近、どこかでそのようなことを聞いた気がするけれど、そのときは他のことに気を取られて聞き流してしまっていた。……というか長武への売り言葉買い言葉的なものだと思ってあえて気に留めずにいた。

なんとも答えかねていると晶が「どんだけ鈍いのよ、泰菜ちゃん。さすがに法くんかわいそうよ」と少々大げさに笑い出す。


「気付いてなかったっていうか……本人にすごく残酷な言葉で否定されてましたからね……」


当時を思い出してちょっとだけ恨みがましく言ってやる。




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