【続】三十路で初恋、仕切り直します。

いちばん残酷な形で否定されたのは高校生のときだったけれど、幼い頃はよく満面笑顔の法資に「ぶーす」とからかわれたし、小学生のときにはクラスみんなが聞いてる前で「おれがあんなかわいくもなんともないやつ、好きなわけないじゃん」と鼻で笑われ。

中学のときには友達やクラスメイトの女の子たちから泰菜との仲を訊かれる度に、法資は「あいつ女じゃないから」「無理無理。泰菜に女感じないし」「っつかあいつに惚れる男とかいるの?」と泰菜のモテなさをネタにまでして笑っていた。

もっとも法資に容姿を貶されてメソメソしていたのも幼稚園生くらいまでのことで、だんだん何を言われても受け流せるようになり「はいはいそうですねー。おっしゃる通りです」と気楽に応酬してやってたから法資と険悪な雰囲気になることがなく、それがなおのこと周囲からは仲良く見えていたらしい。



「そういえば法資、昔っから泰菜ちゃんにひどいことばっか言ってたもんねえ」

当時を思い出しながらしみじみと英達がつぶやくと、晶が「そうそう。それでよくあたしも法くんのこと叱ってやったわ」と頷く。

「泰菜ちゃんに意地悪ばっかしてるくせに、俺と泰菜ちゃんが仲良くしてると家に帰ってからの俺のこと不意打ちで蹴っ飛ばしてきたり、俺の手に負えないくらい臍の曲げてさ。ときどき泰菜ちゃんに当たってたこともあったよね、捕まえたトカゲとかカエルかざしてしつこくしつこく嫌がる泰菜ちゃんのこと追い掛け回したり、服の中に突っ込んだりしてさ」
「……トカゲとかカエルを女の子の服の中に……?」
「ええ、そういえばそんなこともありましたっけ」

今では笑い話にしかならない思い出に泰菜が薄く笑うと、眉を顰めた晶はたった今その場面を目撃したかのように「法くん最低ね」と不快げに吐き捨てた。




< 90 / 167 >

この作品をシェア

pagetop