ラベンダーと星空の約束+α
今度は「くだらねぇ」と言わずに、大樹は紫龍を見て私を見て、
大きな体をこっちに向け、話しを聞く姿勢を見せた。
「紫龍、二人三脚って何の事か分からないけど、流星は『正直な気持ちを言え』って言ったんでしょ?
私も聞きたい。聞かせて?
最近心配だったの。
紫龍にファーム月岡を押し付けているんじゃないかって…
どうなの?気を遣わなくていいんだよ?
正直な気持ちを聞かせて?」
「母さん…俺…まだ決めらんない。
ファーム月岡は好きだよ。
最近色々やらせてくれるから、店の仕事を楽しいと感じる。
けど、父さんの野菜畑も気になるんだ。
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加後の北海道農業の生き残りについて考えている事もあるし、
それを実現させてみたいと言う気持ちもある」
「お前…子供のくせにTPP問題について考えてたのかよ…すげぇな…」
「それと、もう一つやりたい事がある」
「どんな事?聞かせて?」
紫龍は私と大樹の間で視線を一往復させ、
それから斜め上の…多分流星がいるんじゃないかと思う遠い天国に視線を向けて、きっぱりと言った。
「世界を見たい」
「でけぇ夢だな…」
「うん。文学の世界で異国の文化と歴史に触れて、そこの言葉を一語一語覚えて行く内に思うようになったんだ。
本の中の景色を、自分の目で見に行きたいって……
それがただの旅行なのか、それともビジネスなのか、具体的に何をしたいのかまだ分からないけどさ」
まだ中学一年生の紫龍。
当たり前だけど見た目は子供だ。
その小さな子供の体には、大きな好奇心と知識と可能性が詰め込まれていて、
私の目の前でキラキラと眩しく輝いていた。
布団の上に立ち上がり、紫龍の隣まで歩いた。
まだ私の方が少しは背が高いけど、来年にはきっと抜かされてしまうだろう。