続・雨の日は、先生と
先生―――


その日は、それからもう鳴ることのなかった電話。

その向こうの誰かに、私は嫉妬していた。


カナちゃん。


大好きな先生が、親しげに呼んだ彼女。

それも、関係を明かしてくれないなんて。

あの、天野先生が。


先生のことを信じていないわけじゃない。

だけど。

私の知らない先生が、そこにいた。


分かっている。

先生は私に出会う前だって、恋をして、結婚して、子どもができて。

私の知らない先生が、生きていたこと。


先生の過去を詮索するつもりはない。

今が幸せならそれでいい。


だけど、今、この瞬間に。

知らない先生がいることが、悲しい―――


せっかく、先生と共に人生を歩み始めるところだったのに。



台所に座り込んで、私は気付いたら泣いていた。

ここにいれば、悲しいことなんてないって思っていたのに。

先生の隣にいられれば、何も要らないって。


いざ、一緒に暮らしてみると、先生のことをすべて知っていたくなる。

どんな小さなことでさえ。

でも、そんな自分が嫌だ……。
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