続・雨の日は、先生と
第4章 ここにいること

静かな日々

そして、やっと私にやってきた平穏な日々。

先生の帰りを待つだけの、静かな毎日。

それが、どれほど貴重なものか、分かった気がした。


やっぱり誰だって、好きな人と一緒にいたいよね。

きっと、「カナちゃん」という人は、そんな単純な動機であんなことをしたわけではないと思うけれど。


これは、私の憶測でしかないけれど―――


カナさんは、玲さんのことが大好きだったんじゃないだろうか。

そんな自慢のお姉さんのところにやってきた、優しい天野先生。

彼に魅かれていく自分を、カナさんは許せなかったんだと思う。

大好きなお姉さんの、旦那さんになる人を好きになるなんて。


考えただけで苦しい。

絶対に叶わない、叶っちゃいけない恋だからこそ、本当に苦しかったと思う。

私が高校のとき、先生の指輪を見る度に胸を痛めた、その何倍も。

カナさんは、苦しかったんだと思う―――


そして、事故が起きて。

大好きなお姉さんが、植物状態になって。

15年の間、そばにい続けた先生を、カナさんは一体どんな気持ちで眺めていたのだろう。

どれほど、切なかっただろう―――


それなのに、先生は15年経って、私を選んでしまった。

先生のせいではないけれど、結果的に玲さんは、繋ぎ止められていた命を絶たれた。

例えそれが、玲さんの望みであったとしても。

カナさんは、先生を恨んでもいい立場なのに。

それでも、やっぱり、先生を恨むことはできなかったんだ。

ずっとずっと秘めてきた愛しい気持ちは、そんなことで簡単に消えるようなものではなくて。


だから、カナさんはその矛先を、私に向けた。

いけないことだと、先生をも傷付けることだと分かっていながら。


カナさんは、私よりもっともっと、もっと苦しかったんだ。

だから、私は彼女を憎めない。

先生もそれが分かっているから、「ずっと私の大切な妹だ。」って、優しい言葉を掛けたんだろう。


人生って、何て切ないんだろう。

上手くいかないんだろう。

それでも私と先生が一緒にいられることは、奇跡以外の何物でもないんだ。
< 42 / 73 >

この作品をシェア

pagetop