ヒット・パレード
あの会議から二日後の
2月16日………
「陽子、ちょっと来てくれ」
スタジオで受け持ち番組の収録を終えた後、本田は後輩の初音陽子を自分の所へと呼びつけた。
「なんでしょう?」
陽子が目の前に駆け付けると、本田は上着のポケットから何かを取り出して、それを陽子の方へと無造作に差し出す。
「ほれ!受け取れ」
その、本田の行動の意味がいまいち理解出来ない陽子は、キョトンとした顔でそれを受け取ると、手に持たされた物をじっと見た。
「いったい何ですかこれ……バレンタインのお返しにしては………」
「ちげーーよっ!」
陽子のとんちんかんな台詞を、本田は間髪入れずに否定した。
「見ればわかるだろ、CDだよ!」
確かに、陽子の手にある物はCDであった。しかも、CDショップで売っているオリジナルの物では無く、録音用のCDである。
そのCDケースにマジックで書かれた文字を、陽子はまるで何かの呪文のように読み上げた。
「ト…リ…ケ…ラ…ト…プ…ス…?」
「お前、知ってるかそれ?」
「えーと、確か………」
陽子は、数秒程何かを思い描くように天井を見上げた後、人差し指を立て笑顔で答えた。
「恐竜!」
本田の顔が歪む。
確かに恐竜の名前には違い無いが、誰も好きこのんで恐竜のCDなんて渡す訳が無い。
「陽子、お前いくつだ?」
突然の不躾な本田の質問に、陽子は一瞬眉をひそめたが、特に隠す程の事でも無いので素直に、だが小さな声で答える。
「今年で28になります……」
「28か………」
「悪いですか!」
「いや………」
28歳といえば、トリケラトプスが活躍していた時はちょうど生まれた位の頃だ。知らないのも無理は無いか……と、本田は彼女のリアクションに納得した。
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