ヒット・パレード



あの会議から二日後の
2月16日………


「陽子、ちょっと来てくれ」


スタジオで受け持ち番組の収録を終えた後、本田は後輩の初音陽子を自分の所へと呼びつけた。


「なんでしょう?」


陽子が目の前に駆け付けると、本田は上着のポケットから何かを取り出して、それを陽子の方へと無造作に差し出す。


「ほれ!受け取れ」


その、本田の行動の意味がいまいち理解出来ない陽子は、キョトンとした顔でそれを受け取ると、手に持たされた物をじっと見た。



「いったい何ですかこれ……バレンタインのお返しにしては………」


「ちげーーよっ!」


陽子のとんちんかんな台詞を、本田は間髪入れずに否定した。


「見ればわかるだろ、CDだよ!」


確かに、陽子の手にある物はCDであった。しかも、CDショップで売っているオリジナルの物では無く、録音用のCDである。



そのCDケースにマジックで書かれた文字を、陽子はまるで何かの呪文のように読み上げた。


「ト…リ…ケ…ラ…ト…プ…ス…?」


「お前、知ってるかそれ?」


「えーと、確か………」


陽子は、数秒程何かを思い描くように天井を見上げた後、人差し指を立て笑顔で答えた。


「恐竜!」


本田の顔が歪む。


確かに恐竜の名前には違い無いが、誰も好きこのんで恐竜のCDなんて渡す訳が無い。


「陽子、お前いくつだ?」


突然の不躾な本田の質問に、陽子は一瞬眉をひそめたが、特に隠す程の事でも無いので素直に、だが小さな声で答える。


「今年で28になります……」


「28か………」


「悪いですか!」


「いや………」


28歳といえば、トリケラトプスが活躍していた時はちょうど生まれた位の頃だ。知らないのも無理は無いか……と、本田は彼女のリアクションに納得した。


.
< 15 / 201 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop