ヒット・パレード



『もしもし………』


長い呼び出し音の後に、少し不機嫌そうな電話越しの声は、今まで寝ていたのをこの電話によって叩き起こされたからであろう。


「柴崎か?朝早くから申し訳ない、テレビNETの本田だ」


『ああ、本田さんッスか。どうしたんです、こんな時間に?』


本田が名乗ると、《柴崎》と呼ばれたその相手の声から不機嫌さが消えた。


実は、この柴崎という男と本田は親しい間柄……というより、柴崎はこれまで音楽活動の事で本田に随分世話になっており、本田は彼にとっての恩人のような存在であった。


「実は、お前……というかお前のバンドに頼みがあって電話したんだが」


『なんです、頼みって?』


「今からこっちに来て、ライブ演ってくれないか?」


『はあ~~~?今からッスかぁ?』


受話器から、柴崎の素っ頓狂な声が返ってくる。


『でも、俺達のライブは夕方6時頃だった筈じゃ………』


「その予定だったんだが、色々あってな………この後の時間帯、番組に穴が空きそうなんだ。無理を承知で頼むよ」


こんな事を頼めるのは、彼等しかいない。柴崎もその切羽詰まった本田の心情を理解したのだろう………本田の依頼に快く応じてくれた。


『分かりました!本田さんの頼みじゃ断れないッスよ。今から、大至急メンバー連れてそっちに行きます!』


「ありがとう!本当に済まない。恩にきるよ!」


なんとか柴崎に話をつけ、ほっと胸を撫で下ろして電話を切る本田。


プログラム変更に対し不安が無い訳ではないが、この際贅沢は言ってられない。あまり気にするのはよそう。


一方、柴崎の方はすぐに行動を開始する。メンバーに緊急召集をかけ、移動用のミニバンでライブ会場の武道館を目指した。


道中、車を運転する柴崎とメンバーとの間で、こんな会話が弾む。


「それにしても、日曜の朝から俺達のライブって、テレビNETもずいぶんディープな事するねぇ」


「裏番組は、NHKのラジオ体操ってか?」


「ねぇ?いつものアレやる?
ニワトリの首切って客席に投げるやつ」


「今日はやらない!さすがにテレビの生放送はマズイ!」




彼等のバンド名は《デビル・ハンド》生粋の超過激ヘビメタバンドであった。



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