ヒット・パレード
「誰だよ、あれは……?」
森脇の言葉に、ステージ袖の全員がその男の方へと目を向けた。
森脇には見覚えの無い顔………いや、そうでは無い。出番待ちの楽屋のテレビに出ていた。
確か、全員楽器が弾けないとかいうバンド。そのバンドでギターを弾く真似をしていた男だ。
「あれは《プラチナボンバー》のギター、喜矢尻君ですね」
その名前を陽子が口にした。
「てか、なんであそこにいるんだよ?」
「さあ……私に訊かれても……」
自分が知るはずも無い。と首を傾げる陽子。
その男、喜矢尻は手にギターを持ち何も喋らずただ、無言で立っているだけだった。観客は、その様子を少しの間黙って見つめていたが、その意味不明な行動に次第にざわつき始める。
そして、同様に彼を見ていた本田が不快感を露にして言った。
「どうせ停電のどさくさに紛れて、ウケでも狙うつもりだったんだろう。この大事な時に余計な事しやがって!」
インカムに向かい、スタッフに喜矢尻を排除するように、本田が命じようとしたその次の瞬間。
喜矢尻のとった行動に、武道館にいた全ての人間の目が釘付けとなった。
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