ヒット・パレード



「誰だよ、あれは……?」


森脇の言葉に、ステージ袖の全員がその男の方へと目を向けた。


森脇には見覚えの無い顔………いや、そうでは無い。出番待ちの楽屋のテレビに出ていた。


確か、全員楽器が弾けないとかいうバンド。そのバンドでギターを弾く真似をしていた男だ。


「あれは《プラチナボンバー》のギター、喜矢尻君ですね」


その名前を陽子が口にした。


「てか、なんであそこにいるんだよ?」


「さあ……私に訊かれても……」


自分が知るはずも無い。と首を傾げる陽子。


その男、喜矢尻は手にギターを持ち何も喋らずただ、無言で立っているだけだった。観客は、その様子を少しの間黙って見つめていたが、その意味不明な行動に次第にざわつき始める。


そして、同様に彼を見ていた本田が不快感を露にして言った。


「どうせ停電のどさくさに紛れて、ウケでも狙うつもりだったんだろう。この大事な時に余計な事しやがって!」


インカムに向かい、スタッフに喜矢尻を排除するように、本田が命じようとしたその次の瞬間。




喜矢尻のとった行動に、武道館にいた全ての人間の目が釘付けとなった。



.
< 191 / 201 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop