ヒット・パレード



3月15日………


特番会議の日から、およそ一ヶ月。24時間ライブの出演交渉は、それなりに順調だった。


本田の予定していた、およそ百組近くの出演交渉リストのうち、三分の一近くのアーティストとの交渉は成立していた。


人気どころのアイドルグループは勿論のこと、普段テレビにはあまり出ないアーティストも、このライブの出演には快く承諾してくれている。


まあ、あの大御所演歌歌手約一名がそのメンバーに加わっているのは、本田にも誤算であったのだが………


ただ、肝心のトリケラトプスとの出演交渉は未だに成立していない。


担当の陽子が必死になって捜すも、彼等の消息は全くと言っていいほど掴めていなかったのだ。


「すいません、本田さん………一生懸命捜してはいるんですけど………」


神妙な表情で頭を下げる陽子の前で、本田は顎に手を当て何かを考えているようだった。


すると、次の瞬間。


「陽子、お前今夜この後予定あるか?」


本田の突然の問い掛けに、陽子は少し驚いたように顔を上げた。


「は?……いえ、別に予定はありませんけど?」


「仕事が終わったら、飲みに行くか」


想定外なその台詞に、陽子は瞬きを何度もしながら本田の顔をまじまじと見つめた。


「どうした、行くのか、行かないのか!」


「いえ、行きますよ!モチロン」


実を言うと、仕事もスマートにこなし真面目でルックスもまずまずである本田に対し、陽子は尊敬もし、秘かに恋心を抱いていた。


本田は今まで、番組の打ち上げ等でスタッフ全員で飲みに繰り出す事はあっても、本田に個人的に誘われた事など一度も無い。


もしかして、本田は自分に対し上司と部下以上の特別な感情を抱いているのではないか?


そんな淡い期待を抱きながら、陽子は本田の誘いを二つ返事で快諾するのだった。



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