ヒット・パレード



「なんなんだよ!お前は!」


いきなり飛びついてきた陽子に対し、当然とも言える森脇からの問いに、彼女は興奮覚めやらぬ表情で今言った言葉をもう一度繰り返した。


「アナタ、森脇さんなの?」


「だったらどうした!森脇なんて別に珍しい名前じゃねぇだろ」


立ち上がり、ズボンの尻についた砂利を払いながら森脇は迷惑そうに顔をしかめた。この女、いったい何がしたいんだよ?という顔である。


「森脇 勇司!」


陽子は、まるでクイズに答える回答者のように、森脇を指差して彼のフルネームを口にした。


森脇は、ますます怪訝そうに陽子の顔をまじまじと見る。


「どうして俺の下の名前を知ってる?」


「私、トリケラトプスの大ファンなんです!」


それを聞いて、森脇はようやく目の前の女の先程までの異常な行動の意味を理解した。ただ、今ではすっかり芸能界から身を退いている彼からしてみれば、あまり歓迎すべき事では無い。


「悪いが、サインはしない主義なんだ。それに今は仕事中だ、アンタもさっさと車に戻ってくれ。後ろの車がつかえてる」


そう切り捨てて交通整理に復帰しようとした森脇だったが、そうは簡単にいかなかった。


「戻りません!」


「なに?」


「森脇さんに、お話があるんです!」


「はあ?」


お話って何だよ?……現役の頃、しつこく追い回してくるファンは何人もいたが、そんな事を言ってくる奴は一人もいなかったぞ?と、森脇は目の前で両手を広げて立ち塞がる陽子を困惑の眼差しで見つめた。



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