ヒット・パレード
「意味がわかんねぇよ!とにかく仕事のジャマだ!早く車に戻れ!」
「イヤです!」
「イヤですじゃねえ!お前の車が動かねぇと、後ろの車が進めねぇだろっ!」
「話を聞いてもらえるまで戻りません!」
「いいから戻れ!」
「戻りません!」
「この………」
埒があかない押し問答に、苦々しい表情で陽子を睨む森脇。そうしている間にも、森脇の持っている無線機からは待ちくたびれた同僚の催促の声が聴こえてくる。
『森脇さーーん、なにやってんのーー?こっちの方、大渋滞なんですけどぉーー?』
見れば、自分の担当する車線の方も遥か先まで渋滞が続いている。早くなんとかしなければ、交通パニックを起こしそうだ。
それでも、テコでも動きそうに無い陽子の頑固さに、ついに森脇の方が折れた。
「わかったよ!もう、アンタには負けた!仕事が終わったら話でも何でも聞いてやるよ!」
「本当ですかーーっ!」
「ああ、この先にあるファミレスで午後8時に待ち合わせだ。それでいいだろ!」
「わかりました!ありがとうございます!」
「分かったら早く戻れ!」
「はいっ!」
つい少し前までは、思い付く限りの悪態をついていたのとは同じ人間と思えない程に、爽やかな笑顔で応じた陽子は、回れ右をしてそそくさと自分の車へと戻って行く。
これでやっと仕事が再開出来る………と、胸を撫で下ろす森脇に、運転席に着いた陽子が再び大声で呼び掛けた。
「森脇さーーん!待ってますから必ず来て下さいよおーーーーっ!」
「うるせえっ!わかったって言ってんだろっ!」
去って行く陽子の車の後ろ姿を渋い表情で見送りながら、森脇は、今後もう二度と赤いフィットを停めるのはよそうと心に誓うのだった。
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