ヒット・パレード
午後7時50分………
遅番の作業員と交代の引き継ぎを終えた森脇は、現場から2キロ程の距離にある会社の駐車場で車に乗り込むと、不機嫌そうな表情で煙草に火を点けた。
ゆっくりと煙草の煙を吸い込むと、ため息と共にそれを吐き出す。
まったく、面倒な約束をしちまった。
あの時は言わば緊急避難的な措置とは言うものの、あんな約束に応じてしまった自分に、今更ながら腹が立つ。
いっそのこと、バックれてやろうかとも考えたが、その後であの女に毎日現場へと押しかけられたら堪らない………その考えは、すぐに引っ込めた。
もう少し、気楽に考えよう。自分のファンだと言うあの女に、10分かそこら話に相づちを打ってから、最後に記念写真の一枚でも撮らせてやれば良いだけの事だ。
無理矢理にでもそう思わなければ、腹が立って仕方がない。
「クソッ!面倒くせぇな!」
そう一言呟くと、森脇はイグニッションキーを捻り、陽子の待つファミレスへと車を走らせて行った。
.