ヒット・パレード
「ちょっと待って下さい!」
背中越しに陽子が呼び掛けるが、森脇はそれに振り返る事もなく、そのまま店のドアを開け、出ていった。
「森脇さん!」
慌てて森脇の後を追いかけようとする陽子。しかし、その陽子をマスターが呼び止め彼女を制止した。
「ヨーコさん、おやめなさい。
あなたが今、彼に何を言っても彼の決意は変わらないでしょう」
「だってマスター………」
「ヨーコさん、あなたはまだ知らない。彼がどうしてロックを辞めたのか………どうしてトリケラトプスを解散させなければならなかったのか………」
ひどく悲しそうな顔をして、マスターはそう言った。
そんなマスターの表情を見て、陽子は思った。マスターは全てを知っている………トリケラトプスの解散劇の裏側も、森脇のあの頑なな態度の理由も………そして何より、マスター自身が誰より森脇の復活を望んでいるのだという事を。
「教えて下さい!マスター!
私、なんにも知らないけれど、ただこれだけは分かるんです。このままじゃ誰も幸せになれないんじゃないかって………私も、森脇さんも、そして森脇さんを取り巻く全ての人達も」
陽子の言葉を聞いたマスターの顔は、いつの間にかまたいつもの穏やかな優しい笑顔に戻っていた。
「とにかく、座りなさいヨーコさん。確かに、今のあなたにはそれを知る資格があるようだ………」
そして、マスターは何かを決心したように背筋を正すと、真剣な眼差しを陽子に向けて静かに言った。
「分かったよ、話そう。
彼の運命を変える事となった、28年前のあの夜の出来事を………」
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