ヒット・パレード
───話は、28年前に遡る───
◆◆◆
1986年7月20日………
この日、森脇は三ヶ月ぶりにトリケラトプスのギター《前島 晃(まえじま あきら)》と二人で、客としてBARレスポールへと訪れていた。
「………チッ、ガス切れかよ」
カウンターに座りマルボロをくわえたまま、火の点かない百円ライターを握りしめながら、森脇がしかめっ面で呟く。
「勇司~お前さぁ、超売れっ子のロックシンガーがそんなシケたライター使ってんじゃねぇよ」
ニカッと笑った前島がポケットから取り出したジッポに火を点けると、それを森脇の目の前に差し出した。
「ふん、ライターなんてモンは火が点きゃいいんだよ」
「いや、お前の点いてねぇ~し!」
「まだ点くって!」
森脇は自分の百円ライターを、シャカシャカと振ってから再び着火を試みるが、ライターは火花だけが虚しく飛ぶだけで、やっぱり火は点かない。
「おかしいな……点けっ!コノヤロ、点けっ!」
意地になって、僅かにガスの残った半透明の百円ライターを目の前で振り、何度も火花を飛ばす森脇の様子を暫く面白そうに眺めていた前島が、自分のジッポを森脇の前に置いた。
「ん」
「なに?」
「そのジッポ、お前にやるよ。俺、新しいやつ持ってるから」
「はあ、いいの?貰っちゃって」
「無くすなよ」
「さあね……ライターとか、飲んじまうとよく無くすんだよな」
「無くしたら、ぶっ殺す!」
と、たわいない会話を交わし、笑い合う森脇と前島。
そんな、互いに飾らず言いたい事を言い合う二人の様子を見ても、うわべだけでは無いその深い信頼関係がよく分かる。
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