ホルケウ~暗く甘い秘密~
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顔にこそ出さないものの、湯山彰は上機嫌だった。

ようやく、オオカミの討伐が成功したのだ。

目撃情報はあがっても、いまだ接触すらしたことがなかったのに、今日で5匹も仕留められるだなんて運が良い。


(しかしあのガキ二人……末恐ろしいほどの戦闘能力だな。もはやハンターっていうより武道家だろ)


海間兄妹の戦いぶりを見ていた湯山は、軽く戦慄をおぼえた。

まだ十代とは思えない、しなやかで力強い身のこなしは、野生の獣を彷彿とさせる。

高校生二人が無双している様を目の当たりにした湯山は、もう二度と接触する機会がなければ良いなと考えていた。


「湯山さん、わしらはまだ氷山の一角を見たに過ぎない。オオカミを完全に駆逐するのに、今の人数じゃとてもじゃないが太刀打ちできん」


いつの間にボーッとしていたのか、湯山が気づいた時には、広瀬が淡々と話を進めていた。

話題の内容は、警察の増援の要請だ。


「湯山さんもご存知の通り、ハンターの高齢化が進み、それと同時に慢性的な後継者不足が続いております。猟友会のメンバーも年々減少しており、これじゃあ、とてもじゃないがオオカミと戦えない。あいつらの異常な力強さを、あなたも見たでしょう?」

「もうとっくに申請していますよ。個人的には、道警本部と連携とりながらもっと大規模な編成でオオカミ駆除をしたいです。しかしね、俺はしがない警部補ですから。上が首を縦にふらなきゃどうにも出来ないんです」


ため息をつく広瀬を見やりながら、湯山は内心呟いた。


(まあ、お偉いさん方の意見も理解出来なくはないんだがな。いくら被害が広がりつつあるとはいえ、一つの事件にばかり人員を割いていたら、他の事件が発生した時に警察が手薄になっちまう。そこをつけ狙う輩がいるかもしれないし……)



パトカーはホテル街を右折し、五分も経たないうちに警察署に到着した。

浮かない様子の広瀬と共に、湯山は事務室へと向かう。


「手続きはすぐに終わりますから、ちょっと待っていてください。あ、印鑑ありますか?」

「すいません、あいにく今は持ち合わせていなくて……」

「そうですか。ではちょっとお待ちください」
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