ホルケウ~暗く甘い秘密~


手首の拘束が解けるなり、りこは海間里美にスマホを貸してもらい、白川カトリック教会の相談窓口に電話した。

スミス神父を呼び待っている間に、りこは周囲に目をやった。

幸い、りこや里美を探す人影は、まだ見当たらない。


『もしもし、お電話代わりました。ジェロニモ・スミスです』

「こんにちは、スミス神父。春山りこです。先日は玲共々お世話になりました。ゆっくりお礼と世間話をしたいところですが、実はスミス神父のお力を借りたい事案が発生しまして」


やや早口気味に、一呼吸ですべて言い切ると、スミス神父の反応は速かった。


『どういうことでしょうか?』

「目の前で知人が人狼に噛まれました。助けていただけませんか?」


一拍置いてから、スミス神父は鋭い声で言った。


『今、どちらに?』

「ブルーバード動物病院裏の森です」

『隣のボーリング場だった廃墟の駐車場まで、その人を運んでください。5分で向かいます」


電話を切り、りこは里美にケータイを返した。
山崎を背負い立ち上がるが、足首に鋭い痛みが走り、少しふらついてしまう。

先ほど少年に殴られた頬は、熱を持って腫れはじめたのか、ズキズキと痛み始めた。


「悪いけど、手を貸してくれない?見返りに、何があったのか教えるから」


りこがそう言えば、里美は訝しげに尋ねた。


「今、どこに電話していたの?」

「私と山崎先生を助けてくれる人に。海間さん、警察も救急車も呼ばないで」


りこは深く息を吸った。
混乱する海間里美が、勝手に動かぬように抑える楔、それは――――――――――


「私を助けてくれたら、あなたのお父様の死の真相を明かすわ」


誰にも見つからないためとはいえ、死者を餌さとする自分に、りこは嫌気がさした。


「どういうこと?なんで春山さんが、そんなこと知ってるの?」


詰め寄る里美の眼には、力強くも妖しい光が宿っている。

それをサラッと受け流し、りこは答えを促す。


「早く決めて。私を助けて情報を得るか、警察と学校に知らせて情報を受け取らないか」


風に乗って、微かに獣の匂いがした。

りこは、少年の仲間がすぐそこまで迫っていることに気づき、里美を睨むように見つめた。


「……。なにをすれば良いの」


数秒の沈黙の末、折れたのは里美だった。
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