ホルケウ~暗く甘い秘密~
「お待たせ。けっこう待たせちゃったね」
日直の仕事が終わるなり、海間里美はりこを昼食に誘った。
読みかけの文庫本を閉じると、りこはカバンから小銭入れを出した。
「気にしないで。私、今日お弁当じゃないの。海間さんは?」
「あたしも。ってか、お弁当なんて家庭的なもん作ってもらったことない。お母さん料理苦手だし」
「そうなんだ。それじゃ、購買行こうか」
昼休みに入ってから既に5分以上過ぎている。
この時間に購買に行ったことのないりこは、階段を降りた瞬間、思わず目を剥いた。
一階の廊下に犇めきあう人、人、人。
誰もが購買のパンを巡り争い、暴動が起きているようにしか見えない光景が広がっていた。
「え、なにこのマンガみたいな光景……」
「呆けてる場合じゃないよ。早く参戦しないと食いっぱぐれちゃう!」
本能剥き出しでパンを奪い合う生徒たちにおののくりこを放置し、セーラー服の袖を捲った里美は颯爽とパン争奪戦に参加した。
そして鮮やかな身のこなしで、メロンパンとサンドイッチを2つずつもぎ取ってくる。
「はい、春山さんの分」
髪の毛一筋乱すことなく生還した里美に、りこはどう反応して良いかわからなかった。
とりあえず、200円を里美に払うべく財布を傾ける。
「ありがとう」
もう二度と購買には行くまい。
ひっそり誓うりこの傍らで、里美はりこから受け取った小銭をスカートのポケットに突っ込んだ。
何かと行動がワイルドな少女である。
「なるべく話しは聞かれたくないよね」
「そうね」
「なら、良い場所があるよ」
りこの手を軽く引きながら、里美は二階の奥へと進んでいった。
一年生の教室が続くその会の最奥には、化学室があった。
「ここ、穴場だよ。鍵は基本かかってないし、人も来ないから」
そう言って里美は、りこを教室に誘った。