ホルケウ~暗く甘い秘密~
「はい、大丈夫です。続けてください」
「よし。ちなみに、カウントは一人につき一回だ。それから、通常の図書館と同じく、この学校の図書室でもレファレンスをする」
「かなり本格的なんですね」
眉をあげて驚くりこに、山崎は穏やかな笑顔を向けた。
「レファレンスがなにかを聞かない辺りが流石だよ。まあ、したがって図書委員はすべての蔵書のコーナーの位置を正確に把握しておく必要がある」
「そうでしょうね。かしこまりました。後はなにかありませんか?」
「パソコンについてだ。こちらも、貸し出し手続きの紙を書かせてほしい。書面に不備が無いかチェックするだけでかまわない」
「はい」
「放課後の仕事は、今日の放課後に教えよう。そろそろ生徒が来る時間だ。レファレンスの要望があった場合は、今日は俺が引き受けるから春山は受付カウンターで仕事に慣れてくれ」
「かしこまりました」
受付カウンターの前に座ると、なんだか今までのやり取りが入社したての新入社員のように思えてきた。
「春山、お前秘書とかも向いてるんじゃないか?受け答えもしっかりしてるし、何より俺がこんな堅苦しく話すのはお前だけだ。実は社会人なんじゃないか?お前」
「あー、我ながらそれは思いましたよ。まるでOLだなって。でもって、山崎先生なにげに失礼です。高校生でも、こっちだと就職する人のほうが多いでしょ?だったら、今のうちからこれくらい出来て当然です」
「お前敵作りやすい性格なんだな」
困ったような、面白がるような、複雑な表情で山崎はりこを見た。
「お前の言ってることは確かに正論だよ。でもなー、人によってはそれが窮屈に感じたりするんだよな。うちのクラスが良い例だ。お前の意識の高い行動は俺は尊敬するけど、反発したくなるやつは出ると思う」
「左様ですか」
「あっさりしてんなー」
驚き、目を丸くする山崎から目をそらし、りこは深くため息をついた。
「社会に出て働けば、便宜上は未成年でも実際にはもう大人です。学生の頃のようにはいかないでしょう。来年には就活を控えている人も多いわけですし、窮屈とかそんなこと言ってる余裕無いじゃないですか。それに、あの子達って目標とか無いんですか?石田や森下の行動ばっか気にしてて、こっちはいい迷惑」
冷たく吐き捨ててから、りこは我に返った。
これはまずい。
一介の教師にたいして、本音を出しすぎだ。