ホルケウ~暗く甘い秘密~


「よーくわかった。お前はすごく真面目なんだよ」


自分のクラスメートを批難する言葉を吐いたのに、山崎はりこを叱らなかった。
それどころか、困ったような笑みすら浮かべている。


「真面目で不器用。本音しか言えないから、だらけた奴ばっかのうちのクラスで浮いてるんだ。俺は真面目になんかやるってことが少ないから、あいつらの気持ちもわかるんだけど。石田や森下のことは、どうにかするよ。確かにあいつらは、この地域で異常なくらいモテる。そんなやつらに構われてるせいで勉強の邪魔をされたら、たまったもんじゃないよな」


開いた口が塞がらない。
山崎は、みんなと仲良くしろなどとは言ってこなかった。
それどころか、りこの怒りを受けとめようとしている。

すっかり毒気を抜かれ、りこは力の無い声でぼやいた。


「なんか、意外……もっと叱られたりするかと思った」

「価値観の相違を叱るのはちょっとずれた行動だと思うぞ。それに、うちのクラスの奴らが将来のことを考えないでフラフラしているのは事実だし、お前への態度が悪いのも事実だ。だから助ける気になれるし、こんだけしっかりしてりゃ多少放置したって大丈夫だろ」

「……ご理解頂けて嬉しい限りです。そのような評価を頂けて恐縮です」


言葉こそまた堅苦しくなったが、りこの綻んだ笑顔は山崎の視線を奪った。


「ほんとは、山崎先生のこと警戒していたんです。顔が良くて人当たりが良いと、女子が群がるでしょう?引っ越してきたばかりの新参者が近づいたりなんかしたら殺される。それに、山崎先生の性格もよく知らなかったから……本音もらして良かった」

「春山ってまるで柴犬だな」

「柴犬?」

「なついた人間にしか笑顔を見せない。今、すげえ犬っぽい態度だから」


そう指摘された途端、りこは眉をひそめ、むくれて山崎に背を向けた。


「先生になついた覚えはありません」

「そうやって子供っぽい態度出してるのがなついてる証拠だよ。可愛いとこあんじゃん」


いきなり頭をわしゃわしゃと撫でられ、(山崎には口が裂けても言えないが)りこは犬になった気分だった。

こんなにフランクな態度の教師と接したことが無いため、緊張を悟られないように、山崎のライトグレーともシルバーともとれる色のシャツを睨むので精一杯だ。

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