ホルケウ~暗く甘い秘密~


言葉を切った瞬間、玲の瞳孔が大きく開いた。
ハニーブラウンの瞳に何かが走る。

それは、りこの見間違いでなければ、恐怖や焦りだった。

わななき弛緩した唇を見て、玲の瞳が映したものは彼自身の感情だという確信に、一歩近づく。

しかし、どうしたのか尋ねようとした刹那、玲は一瞬うつむき、そして顔をあげた。


「怖いね、オオカミとか。わかった、気をつけるよ。ありがとう」


さっきまでの態度が嘘のような、ごく自然な笑顔に、りこは自分はなにかを見間違えたのだと、本気で思いそうになってしまった。

しかし、あの怯えは嘘ではない。
それを指摘するべきか、しないべきか……。

一瞬の躊躇いの末、りこは黙殺を選んだ。


(玲だって人間だもの。隠したいことくらいあるだろうし……だけど、なんであんなに凍りついていたの?)


玲が深い安堵のため息を漏らしていたことに、その時のりこは気づいていなかった。
< 26 / 191 >

この作品をシェア

pagetop