ホルケウ~暗く甘い秘密~


「お嬢さん!よくご存知ですね!そう、これはリチャードジノリの不朽の名作、イタリアンフルーツです。この店の自慢の一つは、陶磁器をすべてジノリで揃えているところでしてね、いやーお目が高い!」


ジノリの陶磁器に気づいてもらえたのがよっぽど嬉しかったのか、マスターはホクホク顔で階段を降りていった。


「わあー、本物か……。貴重な体験、ありがとうございます」


笑顔でミルクティーを口に運ぶりこに、山崎は微笑みながらゆるい突っ込みをいれた。


「いや、どこのお姫様だよ。ジノリとか普通に生活していたら知らないからね。外車とかじゃあるまいし」

「紅茶が好きすぎて、陶磁器の方にも手がのびてしまったんです。ジノリは、ベッキオホワイトがいつか欲しくて……。って、そういう先生もご存知じゃないですか」

「俺もだよ。紅茶と陶磁器、両方楽しみたいタイプなんだ」


もはや、りこは山崎の話を聞いていなかった。

夢見心地のような、うっとりとした眼差しで、手中のフルーツ柄のカップを見つめている。

そして一通り観察した後は、ミルクティーに舌鼓みを打ち、満足げに目を閉じた。


「この深い味わい、どこの牛乳なんだろう……茶葉もすごく上質なものを使っている。美味しい」

「お前グルメリポーターもいけるよ。っていうか、やっぱり十代には思えない」

「うるさいなー」

「え?」

「今味わってるところなの。邪魔しないで」


よっぽど感動しているのか、いつものりこからは想像もつかないような暴言が飛び出した。

呆気に取られていた山崎だが、すぐにりこも現実世界に戻ってきたらしい。

申し訳なさげに、目を泳がせながら陳謝した。


「ごめんなさい……ちょっと盲目的でした」


そんなりこをからかうように、山崎はクスクス笑いをこらえようともしなかった。


「いやいや、珍しいもん見たわ。やっぱり、お前をここに連れてきてよかったよ」


頭の上に疑問符が浮かぶりこだが、次の瞬間、山崎は真剣な目でりこを見た。


「いつもより元気なかったからさ。今朝」

「え、気づいてらしたのですか……」

「今日は化粧してるだろ。コンシーラーまで丁寧に塗りたくってるってことは、おおかた泣いたりして目元が腫れて、今朝すごいことになってたんだろ」

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