ホルケウ~暗く甘い秘密~
車の停まる音が聞こえ、りこは思考の海から引き揚げ、顔をあげた。
リビングまで出ると、政宗が車から降りていくのが見える。
ついでに現在時刻を確認しようと、壁にかかっている時計をのぞいたら、時刻はもう8時を過ぎていた。
「んッ…………」
短く、しかしはっきりと、低いうめき声がリビングに響く。
反射的にりこは振り向き、ソファーに駆け寄った。
ぼんやりと薄く目を開いて、玲は弱りきった声で、
「りこさん……」
意識が戻ってからの、第一声を発した。
そこからは、玲は急激に回復していった。
完全に目は開き、ゆっくりと起き上がり、骨をポキポキ鳴らしながら、伸びをし始める。
その、薄い筋肉に包まれたしなやかな肉体に見惚れかけたりこだが、ギリギリのところで踏みとどまった。
「ちょっと、いきなり起きて大丈夫?」
顔を覗きこんだりこは、今日何回目かわからない冷や汗を流した。
玲の瞳の光彩は、鮮やかな金色になっている。
口元からは鋭い犬歯がのぞき、明らかに人間とは違う風貌を醸し出していた。
「大丈夫。驚くよね、この見た目は……」
自嘲気味に冷たく笑う玲に、りこはハッとし、なにかかける言葉を探した。
しかし、何も相応しい言葉が見つからない。
「りこさんはさ、俺の正体なんだかわかる?」
りこを見ることなく、玲は淡々と問いかけた。
まだ残暑の厳しい8月だというのに、室内の空気はどこかひんやりとしている。
「オオカミ……?」
「正解であり不正解。正しくは、人狼」
人狼。
その言葉をなぞり、りこは目の前にいる美少年を見つめた。
確かに、その見た目は人とオオカミを融合したようなものだ。
「もっと詳しく言うと、俺は半人狼」
「半人狼……」
聞き慣れない単語だ。
たしか、戦国タイムスリップものの少年漫画に、半妖のキャラクターがいたが、あんな感じをイメージしてよいのだろうか。
想像がつかないりこに、玲は答えを出した。
「新月の日だけ、完全な人狼になる。新月が終われば、嗅覚が異常に良かったり、怪力が残っていたりするけど、まあ一応人間に戻れる」
「今日は新月……」
先ほどの、オオカミに変身した玲を思いだし、りこは新月の昇る間隔を思い出した。
およそ1ヶ月に二回前後、玲は人狼になる。