ホルケウ~暗く甘い秘密~
ボリュームを下げ、りこは鋭く第一声を放つ。


「報道が全国規模にまでなった……。どうするの?このままだと狩られちゃうよ、玲」


りこの視線をまっすぐ受け止め、玲は慎重に言葉を探りだした。


「俺はどこの群れにも所属してないから、新月の夜に誰かに見られない限り、多分大丈夫。それに、この町で派手に暴れまわっているのは、おそらくボロディン族だ……。あいつら相手だと、ハンター達のほうが俺は心配」


最後に軽く肩をすくめる仕草が、無駄にさまになっている。

いつの間にか食事を終えている玲に、りこは今日最初の質問をした。


「人狼にも一族とかあるの?」

「俺が知っている中では3つだけ。ロシアオオカミの一族、ボロディン族と、ありとあらゆる種類のオオカミが混ざるリリス族。ニホンオオカミの一族で、一番長く北海道にいるマシマ族。今回騒動を起こしているのはボロディン族の長、シフラによる命令だと、俺は思う」

「ボロディン族の長って、もしかして昨日言ってた……」

「そう、俺を半人狼にした人狼だ」


玲の目が変わる。
ハニーブラウンの2つの瞳は、冷たい光を放っていた。


「他の一族の思惑なんかどうでもいい。群れに入るということは、人狼として生きていくという意志を示すことになる。俺は絶対、どこの群れにも入らない。必ず、人間に戻る」


力強く言い切る玲は頼もしいが、またもやりこの知的好奇心が刺激される。


「人間に戻ることが出来るの?」

「半人狼のうちはね。ヒトから人狼になる場合、完全な人狼になるには二回噛まれなきゃいけない。一回しか噛まれてない半人狼は、その血の半分以上が人間の血だ。まだ、人間に戻れる」

「どうやって人間に戻るの?」

「″黄金の心臓を持つ乙女″の血を飲む」


(な、なにそのファンタジー全開な中2病設定は!!)


今この状況そのものがファンタジーなのだが、玲の発言の痒さに気を取られたりこは、なんとも言えない表情で黙った。


「うん、りこさんの言いたいことはわかるよ。初めて聞いた時、俺も同じ反応したからね」

「どこのミ◯ワかと思ったわ」

「あくまで伝承だけどね。まあ、人狼がいるんだし、黄金の心臓を持つ乙女くらいいたって不思議じゃないっしょ?」



5分後、りこが食事を終え、チラチラと居間の時計で時間を確認しながら食器を洗っている間、玲は二階で出かける準備をしていた。

最後の皿を洗い終わり、水道を止めると同時に、玲が一階に降りてきた。

部活用のスポーツバッグの他、二冊のノートを手にしている。
< 76 / 191 >

この作品をシェア

pagetop