ホルケウ~暗く甘い秘密~


「どうしたのよ、こんな早い時間に」


いつもよりも20分近く早い訪問に戸惑うりこに、玲は笑顔で答えた。


「忘れたの?俺たち昨日、彼氏彼女の関係になったじゃん」

「偽物のね。で、それが早起きとどう関係があるっていうのよ」

「りこさんを学校まで送ろうと思って」

「…………は?」


まるで信じられないものを見たかのようなりこの反応に、玲は残念そうなため息をついた。


「ちょっとちょっと、朝弱い俺の努力を褒め称えてよ。そんな嫌そうな顔しないでさ」

「だって嫌だもん」

「え、なんで?」


まさか断られるとは思っていなかったのか、玲は全力で驚いていた。


「ねえ、なんで?」

「嫌よ!こんな派手顔に送られたら、変な注目浴びるの目に見えているもの!」


りこが何を嫌がっているのか察しがついた玲はにっこりと笑い、言った。


「女子ってめんどくさいもんね。特に男が絡んだら」


女心に聡い玲のことだ。
理解してもらえたのだ、と一瞬喜んだりこだが……。


「でも、りこさん命を狙われてるんだよ?一時期な嫌がらせの回避と、自分の命、どっちが大事?」

「…………え?」


喜びは奈落の底に落ちていった。


「自分の命だよね?もちろん」

「そ、そうだけど」


それはそれ、これはこれだと言おうとするも、ニコニコと笑う玲の妙な迫力に押され、りこはいつものような強い声が出なかった。


「じゃあ、学校行こう。はいさっさとバッグ持ってきて」


あれよあれよという間にバッグを取りに戻され、家の鍵をかけさせられ、自転車に乗せられ、腰に手を誘導された頃に、りこは現実に戻った。


「ってダメだってば!玲、私は大丈夫だから!いくらシフラってやつがヤバくても、さすがに街中に出たりしないでしょ?出ようとしても止めるやついるでしょ?とにかく降ろして!」


思いつくままにポンポンと言葉を吐き出し、玲から離れようとするりこだが、玲はさらに強くりこの手首を掴み、引き寄せる。


「ダメ。心配だから送る」


普段よりもキッパリとした口調から、りこは玲が折れることはないと悟り、諦めた。


「ちゃんと掴んで。出すよ」


細身ではあるが筋肉に覆われた硬い玲の腰に腕を絡ませ、りこはさっきまで嫌だと思っていた気持ちを忘れていった。
< 98 / 191 >

この作品をシェア

pagetop