ホルケウ~暗く甘い秘密~
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玲と仮面カップル契約を結んだ翌日、りこはいつもより早起きした。

そして普段はポニーテールしかしない髪を丁寧に櫛けずり、鏡の前で雑誌を広げて手順を確認しながら、編み込みをしたのだ。


「こめかみ近くの髪の束をみつあみに……あ、ピンで固定したほうがいいか。頭のてっぺんでクロスさせて……と、飾りピン飾りピン……」


髪をいじる習慣がないわりに、出来映えは上々だったため、りこは会心の笑みを浮かべた。


「ふっふっふ、私って天才かも!ついでに薄く化粧もするか」


いつもならすっぴんだが、オシャレというのはやり始めたら止まらない。

メイクボックスの中から校則に引っ掛からなそうなもの(もしくは使用してもバレなさそうなもの)を厳選し、これまた鏡の前に羅列していく。


「色つきリップが大丈夫なら、ルージュ塗ってもバレないよね。多分」


下地とファンデーションでしっかり舗装した顔に、薄いピンクのチークとアプリコットオレンジのルージュが調和する。


「どうしよ、せっかくだから爪も手入れしようかな……」


女子力に目覚めたりこは、鏡の前を片付けながら真剣に悩んだ。

しかし今爪の手入れを始めたら、朝食を作る時間がなくなる。


「……今度やろう」


隙のないオシャレよりも健康な食生活を優先したりこは、女子力向上モードが引っ込み、代わりに主婦スイッチが入った。

今日は午前中のテストで学校が終わるため、弁当を用意する必要はない。

トーストをかじりながら、最後の教科である物理と化学のノートを何度となく読み返す。

今さら復習などしなくとも良い点数を取る自信はあるが、油断は禁物だ。

ノートを二巡し、もうそろそろ家を出ようと立ち上がったその時、インターホンが鳴った。


(誰よー、こんな朝早くに)


玄関の前に立つ人物の顔を確認し、りこの胸が早鐘を打ちはじめた。

小走りで玄関まで行きさその勢いでドアを開ける。


ゴツッ――――――――――


ドアから伝わる振動と鈍い音に、りこの顔は青ざめた。

恐る恐る視線を前に向けると…………額を押さえながらプルプルと震える玲の姿が。


「お、おはよう、りこさん」


涙目で無理矢理笑おうとする玲を見て、りこは自分を責めようとしない優しさにときめく気持ちと罪悪感に頭が占拠された。
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