戦乙女と紅(ヴァルキリーとくれない)
公務を終えると、私は鍛錬場へと向かう。

本来騎士が剣の腕を磨く為の場所。

姫君などには無縁の場所だが、私は戦場に立つ以上、剣腕を鈍らせる訳にはいかない。

その為に、どんなに忙しくとも、日に一回はここに通う事にしている。

剣を一日握らぬ事は、三度の死に繋がると知れ。

私に剣術を教えてくれた、師である老騎士の言葉だ。

戦場では己の剣腕こそが唯一の命綱。

その剣腕を磨かぬ事は、自らの死期を早めると同義なのだ。

…広い鍛錬場の中、ただ一人剣を振るう。

目の前には、自分よりもやや強い程度の敵を仮想する。

油断すればその刃が己の喉元に突き刺さる。

そんな状況を想定しながら、一心不乱に剣を振り続ける。

明確な敵を想定する事と、漠然と剣を振る事とでは、上達の度合いが全く違う。

これもまた、師の教えであった。

私は15の時より、その教えを忠実に守り、剣を振るっている。

その師は今は引退し、若い騎士達の指導に当たってくれている。

私にとっても、若き騎士達にとっても、彼は偉大な英雄なのだ。

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