戦乙女と紅(ヴァルキリーとくれない)
兵の数に差がありながらも戦に勝つという話は、ない訳ではない。

個々の兵士の練度が高い場合、兵士の士気が高い場合、或いはその両方。

大国であろうと個々の兵の戦闘力が低ければ、わずか一万の兵に十万の大軍が敗北する事もある。

ならば、この地の戦もそうなのではないか。

大国を上回る何かが、小国にあるのではないか。

俺はその小国に何があるのか、確かめてみたくなった。






その小国は、大きな湖に囲まれた島の中心に存在した。

外敵から身を守るための天然の要塞。

それがこの小国が生き永らえている理由の一つであった。

俺は小高い丘の上からその小国の様子を眺め…ちょうど砦の門を通過しようとしている、小国の軍を見つけた。

エメラルド色の甲冑を身にまとった、小国の騎士達。

その軍勢の先頭を率いているのは、少女だった。

「ほぅ…あれが噂に名高い戦乙女か…」

俺は一人呟く。

…これも村で聞いた噂だ。

小国の軍を率いているのは、その国の姫君であると。

戦で両親である王と王妃を亡くし、国を背負って立つ事となった姫君は、自ら剣を取り、武を極め、今では並みの騎士では歯が立たぬ程の強く凛々しい女戦士へと成長し、軍を率いて勇敢に大国と渡り合っているのだという。

戦場を駆け抜け、剣を振りかざし、軍の指揮をする可憐な姫君。

いつしか騎士達は彼女を『戦乙女』、或いは『ヴァルキリー』と呼び、小国の象徴として扱うようになったのだという。

…成程、この距離から見ても、少女の可憐さは際立っていた。

背中まで伸びた銀髪を左右にまとめ、その小柄な体をエメラルド色の甲冑で包んでいる。

腰には豪奢な装飾を施した大剣。

その姿はまさしく、戦場に舞い降りた女神そのものであった。

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