テレクラ

表面だけの鎧に過ぎない格好良さ。

私は、見た目とは、うらはらに、無知だったし、バカだった。

頭が良さそうに見えたところで、それは職業的に口達者なだけで、肝心な知恵がなにもない。そして、周囲に絶賛される完璧だと思い込んでいた私と言うのは、一時の錯覚であって、私は、中身がからっぽの鎧をまとった生き物に過ぎなかったのかもしれない。

そして、こんな状況下の中、相談できるような友達は、正直なところ、誰一人としていなかった。
自分が心を許し、何でも語り合えるような友達は、成人を過ぎた、この頃も、私には居なかった事に、また気づかされてしまった。

自分で、なんとかしなきゃならない。

ただ、それだけを夜も眠れずに考えた。

そして、街中で配られたテレクラのティッシュにテレフォンレディのアルバイト募集の広告を見つける。時給が3000円以上と書かれたそのティッシュを握り、私はテレクラのバイトの面接に行った。

渋谷にあるテレクラの事務所に行き、かかってきた電話相手に会話をすると言うバイト。

私は、仕事が終わった後、この買って間もないのにも関わらず、傷物にされてしまったような車に乗り込み、渋谷へ向かい、テレクラでバイトを始める事となる。

当時の私にとっては、精一杯の悪いバイトだったのかもしれない。

正直テレクラなる存在は知っていたけれども、ただ知らぬ男と、会話をするだけかと思っていた。

テレクラの時給形態は、会話した分数に応じた時給なので、1時間会話をしなければ3000円の時給にはならない。

それに顔が見えるものではないので電話がかかってきて出たところで、すぐ相手に切られてしまう場合がある。
その為、いかに長く、電話をかけて来た相手に長々と受話器を持たせ、通話料を使わせるかが、時給を少しでも得る方法だ。

時に世間話の時もあったけれど、時にオナニーのおかず相手にされた事もあった。

電話の鳴らない日や、すぐに切られてしまう日は、たいした収入にもならず、ただただ睡魔と闘って、わずかな、お金を得る為に、頑張った。

たとえ、わずかなお金であっても、朝から晩まで、立ちっ放しで働き通しの私が、少しでも空いた時間に効率よく金を作るのは、こうした手段しか、思いつかなかったのだ。


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