僕らが大人になる理由

波乱の幕開け




あの日から、紺君が目を合わせてくれない。




「うわああなんでなんでなんでええええ」

「真冬紺ちゃんのこと襲ったんだべ」

「光流君と一緒にしないで!!」

「…め……目が本気…」


休憩室にて。

あたしは、光流君に最近の悩みを爆発させていた。

あの日からというものの、紺君はますますあたしに対して無愛想になり、ついには目も合わせてくれなくなった。

カルピスをお酒のように飲みながら荒れていると、光流君が呆れたような声を出した。


「紺ちゃんなんて前からあんな感じじゃんか」

「違う、もっとこう、前はせめて1単語以上は会話してくれてた…。今は了解です、お願いします、後にしてください、しか言ってくれないんですよ!」

「うはは、ついにロボット化か」

「うわああああ」

「泣け泣けーやーい」



『あっ、あなたが真冬さんですか?』


…紺君の彼女の由梨絵さん、年下だとは思えないくらい大人っぽくてきれいだったな…。

思い出しただけで、溜息が出てしまうほどの美人だった。なんだよ紺君、面食いかよちくしょうって、思った。

正直、嫉妬した。

二人のあの会話、ひとことも聞きたくなかった。

ああ、本当に紺君は、「この人の物」なんだなあって、「二人の関係」や「二人の世界」がそこにあって、わたしは部外者なんだなあって、実感せざるをえなかった。


あたしは、飲み干したカルピスを机のはじに寄せて、テーブルに頬をつけた。


「由梨絵さん…美人でしたね」

「…………そうか?」

「足とか超綺麗だった…髪も手も、おっぱいも大きかった…」

「まあ確かに。あれはD以上あるぞ」

「ぐうっ…」

「まあ、俺はぜんっぜん心の底からタイプじゃねーけどなあんな女。俺はもっと童顔で顔がうすめの子が好きだ」

「え」


突然光流君の声音が変わって、驚いて顔を上げた。

光流君は思いきり不機嫌な顔をしていて、心の底から由梨絵さんを嫌っているようだった。
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