僕らが大人になる理由
人一倍人の感情に敏感で、誰かが傷ついていることにちゃんと気づける人間。

仕事だって完璧にできて、人の悪口を絶対に言わない。

真冬が、彼を好きになった理由なら、何個だってあげられるんだ。


そう、何個だって、あげられる。



『…光流君のこと、ちゃんと見てくれないなら、関わらないでください』



じゃあ、真冬、俺は、真冬の目にどう映ってる?

ちゃんと俺を、見てくれてる?

あのロボットに勝てるような所、ひとつくらいはある?


「光流君、ここんとこ入るの減りましたね。あ、夏休み終わったのか」

「そうそう、2か月の夏休みあっという間だったわー」

「まるまる2か月休みかあー。いいなあ大学生」


今日は真冬と2人きりでラスト。

俺がキッチンで真冬がホールの閉めをしている。


店長と紺君は、冬に向けてのメニュー開発の為に、今日はどこかでミーティングを行っているそうだ。

お客さんの引きがはやかったので、0時の今、お客さんは誰もいない。

お皿を片付ける音や、水が流れる音だけが店に響いてる。

真冬が、うんと背伸びをして取り皿を上の棚に閉まっているのを「がんばれー」とだけ言って見つめていた。


「真冬ちっちぇえな」

「平均ですていうかニヤニヤ見てるだけなら入れて下さいよ」

「光流も届かなーい」

「………」

「嘘だよ貸せ」

「わ」


積み重なった皿を奪って棚に上げると、真冬は驚いたような表情で「ありがとうございます」と言った。そんなに俺に優しくされるのが珍しいか。おい。

真冬はいつも俺を警戒した様な目つきで見てくる。

なんていうか、小型犬のくせに大型犬にケンカ売ってるみたいな感じ。

俺の過去の数々のセクハラのせいで、そうさせてしまったのは仕方ない(昔の俺まじでぶっとばしたい)。

真冬のことが好きだと確信した今、俺は前のように真冬を触ることなんかできない。

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