僕らが大人になる理由

「下げお願いします」

「了解です」


出た! Aボタン! ロボットめ! 誰が遠隔操作しているんだ!


おそるおそるお皿を置いたものの、紺君は目も合わせずに返事をした。

そのことにショックを受けながらも、わたしはいつかのラストの夜のことを思い出していた。


『……真冬、俺のことを、…まだ好きですか?』


あの言葉の意味は、一体なんだったのだろう。

やっぱり、あたしに好かれることは迷惑なのかな。彼女が、いるから。望みが、ないから。

もしまだ好きですと、はっきり伝えていたら、はっきりとした答えが返ってきたのだろうか。


もう諦めて、と。


そういえば、あたしはまだちゃんと返事をもらっていない。

ふられることは分かっているけど、ちゃんとふられてはいない。

結果が分かってるのに、あたしはどうして紺君のことを諦められないのだろう。好きなんだろう。

諦めてと言われて諦められたら、どんなに楽だろう。






それからあたしはしばらく、紺君から話しかけられることは無くなったのだった。




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