僕らが大人になる理由



気付いただけで、なにも進んでいない。

ここにずっといられるわけじゃないって、分かってるのに、見て見ぬふりをし続けていた自分がいた。

学んだことは生かさなきゃなんにも意味が無いってことから、逃げていた。



「…真冬ちゃんは、20才過ぎたら親の会社で働くんだっけ?」


店長が、さっきと同じ笑顔で聞いてくる。


「はい、一応…そういうことに、なっています…。正確には夏採用の方と一緒に…。だからそれまで、自分一人の力で頑張ろうって、思って…」

「そこでどういう仕事がしたいの?」

「あ、えっと…」

「……親と向き合って、こうなりたいっていう目標がそのお仕事の中で見つかると良いね。何かを受け入れないと、前には進めない時もあるからね」

「っ」

「紺君もね、ロボットみたいに見えて、自分の店を出したいっていう熱い夢もってんだよ」



――と、店長が言った瞬間、買い出しに行っていた紺君が店に戻ってきた。

店長は勝手に紺君の夢を話してしまったから、あわてて口を塞いでいた。

でも紺君はぎりぎりその会話は聞こえていなかったらしく、あたしたちやお客さんの視線を完全に無視してキッチンに向かった。

店長はほっとしたように息をついて、店長もキッチンに戻った。


紺君の将来の夢を聞いて、あたしは少し焦りを感じた。



あたしと同い年なのに、紺君はもう、自分で自分の道を決めて歩いてる。

…すごいな、紺君は。

紺君にちゃんとふられたとき、本当にしんどかったけど、本当はどこかですっきりしてた。

きっと紺君は、もし由梨絵さんと付き合っていなかったとしても、あたしには遠い存在のような気がするから。


自分に厳しくて、ぶれてなくて、目標がある。


あたしにないものを、全部持ってる。

紺君は、本当にすごい人。
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